Windows 10がリリースされて、その強引なアップグレード手法が物議を醸している。様々な憶測の元、無用な議論が成されているため、自身の考えをまとめておく。
Windows 10へのアップグレードは強引である
考えをまとめる上で、欠かしてはいけないのがWindows 10へのアップグレードが、今までのWindowsには無かったレベルで強引だということだ。利用者にアップグレードの意思がないにもかかわらず、勝手にアップグレードが成されてしまう仕様はハッキリ言って悪である。本来、OSはアプリケーションという目的を動かすための土台であり、OSを利用することは目的では無い。従って、目的を果たすための手段が勝手に変わってしまうのは、問題と言える。
また、アップグレードに失敗してしまい、パソコンが起動しなくなってしまうと言う報告も枚挙に暇がない。正常に動作していたパソコンを動かなくしてしまうのは、もはや何が目的になっているのかが分からなくなってしまう。
社用パソコンが勝手にアップグレードされるのは、情シスの怠慢または未整備が原因
続いて社用のパソコンが勝手にWindows 10にアップデートされてしまうというのは、情シス(情報システム部門)の怠慢であるか、ポリシーの未整備が原因と言える。本来、会社で利用するようなパソコンは、Windows Update(更新パッチ)を適用するか否かを、集中的に管理する仕組みがある(WSUS)。従って、規模の大きな企業であるにもかかわらず、その管理が成されていないのは情シスの怠慢である。*1
もちろん、情シスが設置できないような中小企業の場合は、利用者の各々のリテラシーとポリシー設定が問われる。特に今回はリテラシーが低かったり、パッチ適用のポリシーが明確に定まっていない企業において、誤ってWindows 10へのアップグレードが実施されたパターンが多いようだ。これを機に一度、話し合いの場を設ける余地がある。
正しいWindowsのエディションが選ばれているのか
デジタルサイネージ(電子看板)にWindows 10へのアップグレードメッセージが表示されるような事態というのは、Windowsのエディションが適切に選ばれていないことが理由と言える。
本来、デジタルサイネージでWindowsを利用する場合は、Windows Embeddedを利用するのが筋であり、公共交通機関の時刻表システムにデスクトップ用のWindows 7や8.1を採用することには違和感を覚える。すなわち、これはWindows 10アップグレード云々の前に、そのシステムがイレギュラーな状態で構築されていると考えるべきだ。この場合、問題とされるべきは、Microsoftでは無く、そのシステムを構築した会社と、その仕様を受け入れた会社である。
また、Windows 10へのアップグレードが標示されたということは、デジタルサイネージがローカルエリアネットワークでは無くパブリックネットワーク(インターネット)に繋がっているということである。パブリックネットワークは接続をするだけでセキュリティの脅威が増えることを意味しており、果たして正しくセキュアな運用が成されているのか、甚だ疑問である。諸外国の一部ではデジタルサイネージがハッキングを受け、卑猥なメッセージやポルノ画像が表示されるという話も聞く。
Windows 10へのアップグレードはセキュリティのため?
Windows 10への強引なアップグレードを「Microsoftがセキュリティのためにやっている」という意見を聞くが、これは無理筋である。なぜなら、Windows 10へのアップグレードが可能な状態というのは、必然的にWindows Updateが適用されていることを意味しているからだ。また、サポート期限切れが間近に迫るWindows Vistaにアップグレードが提供されていないことからも、その考えは無理筋であることが分かる。
また、環境が画一的になるというのは、ある意味セキュリティ的に脅威が増えるとも言えるが、この理屈は少し無理筋なので展開しない。とは言え「強引とは言え、セキュリティのためにMicrosoftがやってくれているんだ」という理論展開は間違っている。
なぜ Windows 10へ強引にアップグレードさせるのか
ではMicrosoftはなぜWindows 10へ強引にアップグレードさせようとするのだろうか。色々と理由は考えられるが、おそらく経済的戦略の色が濃いように見える。MicrosoftがOSのサポートに裂いているコストは大きい。また、Microsoftが販売しているWindows以外の製品も、それぞれのバージョンのWindowsで動作することが求められる。
もし、強引な手法であったとしても Windows 10にアップグレード済みのパソコンが増えていけば、Microsoftは「OSのシェア」という名目で各Windowsのバージョンのコストを削減することができる。
たとえば、Microsoftが新しい製品を発表したとする。本来であれば Windows 7やWindows 8.1に対応するべきかもしれないが、強引な手法を持ってWindows 10のシェアを伸ばしていれば、Windows 7やWindows 8.1への対応を「シェアが低いため」という理由で行わないことも可能になる。
何より、Microsoftからすれば、自社が始める新サービスに対して、追いついてくれないパソコンやユーザに対していらだちを隠せないのだろう。だったら、強引にでもWindows 10にしてしまおうという魂胆が見え隠れしている。
Windows 10も使いやすいけどね
これだけ書いていると、さも私がアンチMicrosoftでWindowsなんて使っていないように見えるかもしれないが、私もWindows 10を使っているし気に入っている。細々とした点で気に入らないところもあるが、大部分は Windows 8.1 から変わっておらず、アクションセンターなど改良点も多い。かたくなに Windows 10へのアップグレードを拒む人もいるらしいが、せっかくだから細々とした理由をアップグレードしない理由にせずに、さっさと新しい環境に慣れてしまえば良いと思う。*2
私自身、最初はWindows 10の変更点にいらだちを覚えたことはあったが、Windowsを捨てるという選択肢が無い今*3さっさと新しい環境に慣れしまうほうが、よっぽど幸せになれる。
ただ、純粋にWindows 10へのポジティブイメージが、一連の強引なアップグレードでネガティブイメージに塗り替えられてしまっているのは、大変残念である。人間、強要されたことはやりたくないものだから。